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政策提言

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政策提言

    Ⅰ-1「外国人受け入れ政策のあり方」(要点)
  • ・政府は合計特殊出生率を2.07まで回復して、人口を1億人で安定させる目標を掲げている。 しかし、政府目標の実現は現状では難しい。理由は、出生率を回復するための予算が圧倒的に不足していることと、 大都市圏から地方圏への人口移動の目途が立っていないからである。
  • ・女性や高齢者の労働参加率の上昇による労働力人口の増加には限りがある。 人口減少に歯止めがかからない中で、それだけで労働力不足を解消することはできない。
  • ・一部の部門や職種あるいは地方圏ではすでに労働力不足が深刻な状況にあり、 今後ますます深刻度が増すものと見込まれている。
  • ・一方、急速に進展しつつあるAIやロボット技術は、近い将来日本人の雇用の半分程度を奪うのではないかと言われており、 農業や介護の分野でも人手を介さない省力化の 可能性が高まっている。このため、外国人労働者の受け入れは、 技術革新に伴う労働市場の変化の流れを見極めながら進める必要がある。
  • ・また、外国人の受け入れは、人口や労働力の減少対策の観点からだけでなく、 産業の振興や社会の活性化、文化の融合などわが国の発展を図る観点からもそのあり方を考える必要がある。 長い歴史を振り返ると、海外との交流を活発に行い、高度な知識や技術をもった外国人を積極的に受け入れた時代は日本の文化や産業が大きく進展した時代でもあった。
  • ・一方、長い鎖国の歴史をもち、これまで多くの外国人を受け入れた経験に乏しいわが国では、 依然として国民の間に外国人の受け入れに対する抵抗感が強いことも事実である。
  • ・このため、高度人材の受け入れはこれまで以上に積極的に受け入れるとともに、 単純労働者の受け入れはそれによって社会問題が生じないように配慮しながら、慎重に進めることが適当である。
  • ・外国人労働者を受け入れる際には、日本を外国人にとって仕事し、生活するうえで魅力的な国にする必要がある。 そのためには、日本特有の労働慣行や賃金体系を外国人にとって受け入れやすいものにするとともに、子女の教育環境を充実することが重要である。
  • ・高度人材の受け入れは、わが国産業のイノベーション力を強化するうえで有力な手段である。 企業や大学・研究機関などに対してその積極的な受け入れを働きかける必要がある。 一定数の高度人材の受け入れについて、インセンティブを付与する仕組みを整備することも考えられる。 また、高度人材の確保を促進する方策の一つとして、優秀な外国人留学生の受け入れと日本での就職機会の拡充を図る必要がある。
  • ・単純労働者については、タテマエとホンネが乖離している現在の技能実習制度を改め、 名実ともに単純労働者を受け入れるための研修・訓練制度として再編すべきである。
     そのうえで、技能実習修了者のうち成績が優秀で、引き続き日本で就労することを認めても 問題を起こすおそれがないと認められる者に限り、期間を限って在留を認めるべきである。なお、その場合には、受け入れ先企業などに対して労働市場テストの実施を義務づけ、 日本人の雇用に悪影響が出ないようにする必要がある。
     また、単純労働者の受け入れを許可制にし、 違法行為には罰金を科し、是正措置を求めるとともに、許可を取り消すこともありうる仕組みにすべきである。 さらに受け入れ先企業などには外国人雇用税を課し、単純労働者の受け入れに伴って生じる社会負担の財源に充てるべきである。
  • ・なお、特別の資格がなくても、また、受け入れ先が確定していなくても入国を認める「移民」は、 日本社会に軋轢と摩擦をもたらし、社会不安を高めるだけである。引き続き移民政策はとるべきでない。
  • ・外国人労働者が集住して居住し、地域社会から隔離した独自のコミュニティを形成しないように配慮するとともに、 本人及び家族に対する日本語教育、日本の制度・社会の慣行・生活習慣などに関する情報の提供を徹底すべきである。
     また、子女の教育についても不登校などの問題が生じないように、きめ細かく対応する必要がある。
    • Ⅰ-2 「外国人受け入れ政策のあり方」(本文)外国人受け入れの現状と基本的な考え方


      Ⅱ-1「日本の雇用・労働問題の解決に向けて」(要点)
      1 日本型雇用システムの行き詰まり
  • ・長時間労働、非正規社員の増大などの雇用・労働問題は、日本型雇用システムの行き詰まりが原因
  • ・企業丸抱えの日本型雇用システムは、企業の成長、発展、拡大があってはじめて成立。日本経済が長期停滞期に入り、企業収益が減少する中でシステムの維持が困難に。その際、企業がとった行動は、賃金の抑制(特に中高年層)、正社員の採用削減と非正規社員の採用拡大、企業内職業訓練の縮小などのコスト削減策。長時間労働の是正も足踏み


    • 2 問題解決の方向と制約


      (1) 雇用システム転換の可能性
  • ・解決策の一つは、北欧諸国のフレキシキュリティ・モデルに代表される欧米型の雇用システムへの転換。しかし、日本型雇用システムの解体、全面的な欧米型への転換は非現実的。北欧並みの積極的労働市場政策や失業時の生活扶助の拡充は、現下の財政状況から実施困難。職務無限定雇用契約を中核に、年功賃金、終身雇用、企業別組合を柱とする日本型雇用システムは、労使双方にとってメリット大。労使いずれからも、日本型雇用システムを抜本的に見直すべしとの声なし
  • ・雇用・労働問題は、日本型雇用システムの基本的な枠組みを維持しつつ、欧米型の優れたところを可能な範囲で取り入れる手法で解決するのが現実的


    • (2) 労働生産性の上昇と産業構造の高度化方策
  • ・長時間労働の是正、非正規社員の待遇改善は、労働コストのアップに直結。労働生産性の上昇が不可欠。人的投資の拡充と働き方改革が必須
  • ・日本型雇用システムは、産業全体の構造改革が進みにくいことが弱点。賃金水準が個別企業の収益力に応じて決定されるため、生産性が低い企業の市場からの退出が進まず
  • ・日本が取り得る方策は、優秀な人材を抱え、体力のある大企業を中心に、企業単位の業態の変化、新規事業の開拓、企業買収などのより一層の推進。そのための政策手段を拡充・強化すべき。併せて、中小企業、サービス産業については、保護政策を転換して、生産性が低い企業の市場からのなだらかな退出の促進、公的な教育訓練を通じた人材育成の強化やIT投資による労働生産性の向上が必要


    • 3 実現可能な解決の手法
  • ・雇用・労働問題の解決には、経営者の意識改革が重要。意識改革や自主努力を担保する措置が必要。法律で努力義務を規定。目標年度、目標値、実施状況の公表を義務化。公表手段は有価証券報告書への記載が効果的
  • ・自主努力では解決に時間がかかり過ぎる場合や十分な解決ができない場合には、直接法律による強制力のある規制が必要
  • ・法規制を実効あるものにするとともに、ブラック企業を排除するため、労働基準監督官の大幅増員による監視、監督体制の強化が必要
  • ・強制力がある法規制の実施テンポは生産性の上昇と一体で段階的に進めることが適当。計画的、段階的に目標実現に向かって取り組むプログラム法を制定すべき
  • ・大企業から着手し、中小企業や零細企業などは、数歩遅れで実施する配慮が必要。ただし、生産性の低い企業の温存につながる配慮は禁物。国や地方自治体自体の問題解決は、国民の理解が得られるタイミングで実施


    • 4 個別課題の解決策
      (1) 長時間労働の是正
  • ・10年後を目途にEU並みの労働時間をめざし、次の措置を規定するプログラム法を制定して、年次計画に従って実施すべき
     ① 現在の時間外労働の限度基準(1週15時間、1月45時間、1年360時間)を絶対的上限として法定
     ② 三六協定特別条項の廃止
     ③ 勤務間インターバル制(11時間)の導入
     ④ 割増賃金率の下限の引き上げ(50%)
     ⑤ 労働時間貯蓄制度の導入
     ⑥ 1週1日、年間104日の休日の義務化
     ⑦ 使用者に対する年次有給休暇の完全消化、長期連続取得(14日以上)の義務づけ
     ⑧ 病気特別休暇の創設
  • ・高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼプション制度)の導入は、労働時間規制の法制化が前提条件

    • (2) 非正規社員の待遇改善
  • ・職務給に年齢給や生活給の要素を追加することは可能。職務給、職能給それぞれの構成要素ごとに賃金水準を比較すれば、合理的な根拠のない格差が明確になるはず
  • ・同一労働同一賃金原則を客観的にみて合理的な理由のない不利益な取り扱いを禁止する趣旨で導入。使用者に賃金決定基準に関する説明責任を課せば、賃金決定の透明性が高まり、労使間の争いが減少。併せて、訴訟における立証責任を使用者側に転嫁すべき (法改正)
  • ・このほか非正規社員の待遇改善策として、次の措置を実施すべき
     ① 限定正社員制度の普及促進(経済界・企業)
     ② 正社員転換優先権の付与(法改正)
     ③ 有期労働契約締結事由の限定と、正当な事由がない契約を無期労働契約とみなす制度の導入(法改正)

    • (3) 女性の活躍推進
  • ・女性が男性と肩を並べて働けるようにするためには、次の措置が必要
     ① 女性活躍推進法の努力義務を、罰則を伴う強制力のあるものに改正(法改正)
     ② 女性に労働時間、勤務時間帯、勤務地などを柔軟に選択できる権利を付与(法改正)
     ③ 従来の男女役割分業や女性に対する固定観念を改め、女性に与える仕事の範囲を男性並みに拡大 (経済界・企業)

    • (4) 高齢者の活躍推進 ― 生涯現役社会の実現 ―
  • ・高齢者に多様な働く場を提供するため、次の措置を講じるべき
     ① シルバー人材センターの業務範囲の大幅な拡充と受注体制の強化(法改正)
     ② 市町村による高齢者の各種推進員などへの任命や市町村が実施する事業への積極的な高齢者の登用(市町村)

    • (5) 公的な職業能力向上策の充実
  • ・EU諸国に大きく後れを取っている人材育成については、次の措置を講じるべき
     ① 公的な職業教育訓練の大幅な拡充(厚生労働省)
     ② 学術・教養中心の学校教育に、もう一つの柱としての職業教育訓練を確立 (文部科学省)
     ③ 生涯学び続けることができる支援措置を拡充(厚生労働省)

    • (6) 解雇規制の見直し
  • ・日本型雇用システムを堅持したまま解雇規制だけ緩めることは無理
  • ・解雇の金銭補償のルール化は、裁判所が解雇が無効だと判断した場合に限り、金銭補償で解決す
     る道を正面から認めるべき(法改正)

    • Ⅱ-2「日本の雇用・労働問題の解決に向けて(本文) 外国人受け入れの現状と基本的な考え方

      Ⅱ-3「日本の雇用・労働問題の解決に向けて(補論) 外国人受け入れの現状と基本的な考え方


      Ⅲ-1「日本の未来を開く地域づくり」(要点)
  •  政府は、内政上の深刻な課題である人口減少を食い止め、今世紀半ばには総人口を1億人程度で安定させるという意欲的な目標を設定した。 それを実現する方策として「地方創生」を打ち出し、東京一極集中を抑制して地方圏から東京圏への人口の流出を反転させるため、 東京に位置する民間企業などの本社機能(中枢管理機能)の地方への移転の促進をはじめ、 地方圏における内発型の産業の振興や農山漁村における集落の生活機能の維持などの施策を推進している。

     「地方創生」が動き出して未だ3年余りしか経過していないこの時点で政策の適否を論じるのは早計かもしれない。 しかし、人口の推移は出生率の回復が遅れれば遅れるほど達成可能な目標水準が低下するため、実効性がある措置が講じられない場合には、 人口1億人安定目標を実現することが永久に難しくなるおそれがある。 このため、これだけは一刻も早く実行する必要があると私たちが考える施策について提言することにした。

     政府が具体的な数値を掲げて人口目標を設定したことは高く評価すべきであり、政府が進めている個別具体の施策について、 私たちに特に異論があるわけではない。残念なことは、政府が進めている施策は総じてパンチ力に欠け、 各地域が必要だと考える事業の自主的、主体的な取組みを求めるだけにとどまっていることである。 全国各地で進められている事業は総じて規模が小さく、メリハリのない総花的な施策だけで、 圧倒的なパワーを持っている東京に対抗できるだけの活力を地方圏に与えることができるか疑わしい。
    「地方創生」を単なる政治的なスローガンに終らせることなく、本気でその実現を図ろうとするなら、 国民に理解と協力を求め、たとえそれが痛みを伴うものであっても、 大胆な発想の下に従来の枠組みにとらわれない実効性がある施策を国の責任において実行する必要がある。

     具体的には、中央集権体制の統治構造を国が自ら進んで変革し、道州制を導入してより 一層の地方分権を推進するとともに、民間企業などにも東京の本社機能(中枢管理機能)を地方圏に移転することを規制と負担の強化を通じて促し、 併せて地方圏において「稼ぐ力のある」産業を育成し、国際競争力がある産業へと成長、発展させるため、 わが国の研究開発・事業化支援体制を抜本的に拡充するとともに、大学の機能の再編、拡充をはじめ、 地方圏における人的資源の厚みを増すための施策を強化する必要があると考える。

    • 提言1 東京圏の中枢管理機能の地方分散と地方圏における振興対象地域

    ① 今後東京圏における大学の新・増設は基本的に認めず、現在の定数を大幅に削減する。 東京圏に位置する国立大学の予算と私立大学に対する私学助成を削減し、浮いた財源を地方圏に位置する国立大学や私立大学に配分する。 国の研究機関の東京圏における新・増設は今後基本的に行わない。国の研究機関を拡充する場合には地方圏で行うこととする。

    ② 東京に位置する企業の本社に係る法人税の課税を、企業が本社機能の地方移転を真剣に検討するのに足るレベルまで強化する。

    ③ 地方圏のブロック中心都市、政令指定都市、中核都市圏(中心都市の人口20~30万人、圏域人口30~50万人規模の都市圏)を優先的に活性化する。 近年農山漁村での生活にあこがれている人が増えていることを受け、それに応えられる地域づくりを、市町村が下支えしながら地域住民主体で推進する。 消滅が避けられない集落については、できる限り早い段階で住民の総意で集落移転することを促す。



      提言2 地方圏における内発型の産業振興と研究開発・事業化支援体制の拡充

    ① 道州制を導入して、道州が内発型の産業振興を推進する体制を整備する。 具体的には、公的な研究開発体制の抜本的な拡充、企画段階から研究開発の推進そして事業化に至るまでの一貫した 公的な企業育成支援体制の整備を進める。

    ② 中小企業が独り立ちできる企業環境を整え、製品の企画・開発力を強化するとともに、独自の販売ルートを確保できるように地方自治体が支援する。

    ③ 中小企業及びサービス産業の労働生産性を高めるため、労働規制の強化、労働基準順守状況の監視の徹底と併せ、最低賃金を引き上げて全国均一水準にする。

    ④ 農林水産業における新規参入者の増大及び経営規模の拡大とともに、技術開発による省力化、効率化を促進するため、機械化、ICT化、ハイテク化を推進する。

    ⑤ 公共事業は基本的に既存施設のメンテナンスと災害復旧にとどめ、公共投資はハードから人材育成、環境の保全と形成、歴史的遺産の保存、文化の振興などのソフト事業に重点を移す。

    ⑥ フランホファー協会をはじめとするドイツの研究機関に比べ大きく見劣りするわが国の研究機関の人員と予算を大幅に拡充する。併せて、わが国の研究機関の弱点である研究開発から事業化に至るまでのコーディネート機能を強化する。

    ⑦ 地域の金融機関の地元企業に対するコンサルタントやシンクタンクとしての機能を強化する。



      提言3  地方圏における人的資源の厚みの強化

    ① 人材こそこれからの時代を支えていく最大の資源・資産・資本であるとの観点から、 超一流の人材の育成、専門的な知識や技能を有する高度外国人の大量招聘、高度な基礎研究重視の大学と実践的な実学重視の大学との選別を通じた全国の国公私立大学の活性化、大学が持っている力を産業界が最大限有効活用することができる体制の整備を図る。また、地域のニーズに迅速かつ適確に応えるため、大学の産学官連携の運営体制の充実と運営方法の改善を図る。

    ② 働きながらいつでも学び直すことができる社会を実現するため、受け入れ側の大学は実践力の強化につながる学科や過程を増設するとともに、企業も社員が学びやすい条件整備や学費の助成を拡充する。



      提言4 道州制の導入

    ① 中央集権体制を地方分権型の統治構造に変革するためには、国から地方への大幅な事務及び権限の移譲が必要であるが、現在の都道府県がその受け皿となることは規模が小さすぎて無理がある。また、全国的に国際競争力のある産業や企業を育成することは、現在の都道府県の権能では難しい。そのためには、道州制を導入するしかない。

    ② 道州は憲法に位置づけられた完全な地方自治体とする。

    ③ 国は、本来国でなければできない外交、防衛、金融、司法などの役割に徹し、内政の大半は決定権を含めて道州をはじめ地方に任せる。

    ④ 過度的には都道府県の上位に道州を置く三層制の地方制度とする。

    ⑤ 道州制を導入しても、国主導によるさらなる市町村合併は行わない。

    ⑥ 道州の財源は道州税を第一として構成する。併せて、道州間の税源格差を是正するため、財政調整制度を設ける。



      提言5  日本版BIDの創設

    ① 地域の関係者による自主的、自発的な地域おこしが一部の反対者の存在によって円滑に進まなくなる事態を避けるため、欧米で成果を上げているBID(Business Improvement District)の日本版を創設して、商店街の空き店舗対策、荒廃農地や荒廃森林の解消を促進する。

    ② 一定割合の関係者の合意があれば、申請に基づき市町村が一定範囲の地域に所在する不動産に対する固定資産税を超過課税できる仕組みを創設する。

    ③ 超過課税分の税収は、全額地元に還元する。

    ④ 還元された税収を財源として、地元が住民や関係者の総意で商店街や農林業の活性化に資すると考える事業を自主的に実施する。



      提言6 農山漁村における日常生活確保のための仕組みの整備など

    〇 地域の住民が協力して日常生活に必要な物品の販売やサービスの提供を行う事業主体として、新たに「協同組合方式」を採用することができる仕組みを創設する。



      提言7 国づくり政策担当局の設置

    〇 ハードな基盤整備だけでなくソフトな施策を含め国づくりを総合的に進めるため、国土交通省の国土政策局を廃止し、現在のまち・ひと・しごと創生本部を大幅に拡充して、新たに内閣府に国づくりを担当する局を設置する。





      Ⅲ-2 「日本の未来を開く地域づくり」(本文)外国人受け入れの現状と基本的な考え方



      Ⅳ-1「イノベーションの活発化と生産性革命」(本文)
  •  バブル経済崩壊後すでに25年が経過した。それでもわが国経済は未だ停滞から本格的に抜け出せないでいる。この間政府は、不良債権の処理、ケインズ流の財政出動、異次元の金融緩和、規制改革など、考えられる施策や措置はすべて実施してきた。しかし、これまでに取られた施策や措置は、いずれも国民が受け入れやすいもので、国民に負担を強いる財政再建や既得権益を剥奪する規制改革は先送りされてきた。
     そのような中で、いま政府はイノベーションの活発化と生産性革命に取り組んでいる。しかし、これが実効性のあるものにならなかった場合には、いよいよわが国経済は停滞から抜け出せず、人口減少とも相まって、ときの経過とともに衰退の道を辿ることは必至である。
     20世紀末頃から技術革新と国際的な競争激化が急速に進み、わが国の産業・経済を取り巻く状況が大きく変化し始め、さらにその勢いが日ごとに増しつつある。日本が世界をリードしていた時代はもはや過去のものとなった。所得水準や国際競争力をはじめ社会のさまざまな面で、日本の力の衰えが目立つようになってきた。今や新しい時代に対応するために、わが国産業・経済の構造や仕組み、体質をどこまで変革できるかが喫緊の課題であることを、私たちはしっかり認識する必要がある。猛烈な勢いで進展する技術革新と地球規模で繰り広げられる国際競争の中で、引き続き確固たる地位を確立して、苦境に陥っている日本経済を再生するためには、これまでの成功体験を捨て、日本経済成長の原動力となった日本特有の仕組みをゼロベースで見直すとともに、日本の産業・経済に足りないところを積極的に補い、対日直接投資や製品の輸入、人材の受け入れなどの面で、海外に向かって広く門戸を開いていく必要がある。
     併せて、政府が本来果たすべき役割を担うのに必要な政策予算を確保できるだけの財政基盤を確立するとともに、積み上がった政府の累積債務縮減の目途を確定し、国民の間に高まっている将来不安を解消して消費と投資を拡大するため、早急に財政再建の道筋を明らかにする必要がある。
     そのためには、背水の陣で次の方策を講じるべきである。
  • 提言1 イノベーションの源は「知」とリスクテイクにある。「知」を創造する基盤なくして、イノベーションは起こらない。イノベーション活発化のために、「知」の創造基盤である大学の充実、果敢にリスクに挑戦する企業経営者が活躍しやすい経営環境の整備、労働者の社会的流動性を著しく制約している日本型雇用システムの解体・変革を大胆に進めるべきである。

    ① 大学の役割を強化するための運営交付金の拡充
     シリコンバレーをはじめ世界でイノベーションが活発に行われている地域には、必ず中核となる大学が存在している。大学の存在を抜きにして、新しい時代を切り開く技術革新は起こりえない。近年、財源不足で運営費交付金の削減が続いていることもあって、発表論文数が減少し、国際学会での情報発信力が低下するなど、日本の大学の実力の衰えが目立つようになってきた。また、ひところ進展が見られた大学発ベンチャー企業の立ち上げも、最近は足踏み状態にある。
     世界のトップクラスの大学に引けを取らないだけの研究体制を拡充強化し、併せて、一流の外国人研究者や世界の優秀な留学生を引き付ける実力と魅力のある大学づくりなしに、イノベーションを活発化させることはできない。運営交付金を大幅に拡充する必要がある。


    ② 人材育成の強化、外国人の招聘と対日直接投資、工業製品輸入の拡大
     人口減少に歯止めを掛け、女性や高齢者の雇用を拡大し、労働者の能力の向上を図らなければならないことは当然のことである。近年縮小傾向にある企業内職業訓練だけでは、急速に進む技術革新に対応できる資質を備えた人材の育成は困難である。大学での学び直しを含め、従業員のリカレント教育を抜本的に拡充し、高度化する必要がある。
     しかし、外に向かって門戸を開き、海外からの人、もの、金の流入を促進しない限り、それだけでは人口減少下で直面している現在の苦境を乗り切ることは難しい。日本人だけでは対応できない分野の知識や技術を備えた外国人を破格の待遇で招聘するとともに、対内対外直接投資の極端なアンバランスや輸出入の不均衡を是正して、対日直接投資の拡大や工業製品の輸入拡大に一段と力を入れる必要がある。


    ③ 企業によるイノベーション活発化に必要な条件
     大企業は豊富な資金と優秀な人材を抱えているものの、そこで行われるのは改良型の技術開発にとどまり、一般的に大企業からは革新的なイノベーションが生まれにくいと言われている。アメリカがイノベーションで世界をリードしているのは、経営者が積極的にリスクを取って新規事業に挑戦する意欲が旺盛であり、併せてベンチャー企業の立ち上げが活発だからである。日本の経営者がリスクテイクに慎重であるだけでなく、ベンチャー企業の立ち上げで後れを取っていることは、イノベーションを促進するうえで致命的である。


    ④ 経営者がリスクを取ってイノベーションに挑戦しやすい経営環境の整備
     日本の経営トップの多くは会社の内部から登用された社員上がりの者が占めており、その経歴からどうしても安全経営志向になりがちである。また、その自由裁量権が欧米諸国と比べて低いことが、変化への対応や革新的なイノベーションへの挑戦を鈍らせる原因になっている。
     日本で積極的に新規事業に取り組んでいる企業の多くは、昔も今も創業者がオーナーの企業であり、あるいは外資系企業の外国人経営者である。幹部候補生には早い段階から企業経営者としてふさわしい知識と見識を備え、必要な経験を積む機会を与えるための特別の研修メニューを用意することが望まれる。
     また、後任の社長を指名した前任者がそのまま会長としてとどまり、経営全般ににらみを利かせていては、社長が交替しても思い切った方向転換が難しいのは当然である。会長職を置く場合でも、代表権のない名誉職とすべきである。
     企業経営者のリスクテイクを積極化させるためには、中期目標での業績連動報酬やストックオプションの導入が有効である。


    ⑤ 職務無限定雇用契約対象者の限定によるベンチャー企業立ち上げの促進
     政府は、これまでもベンチャー企業の重要性を認め、その育成のためにさまざまな支援措置を講じてきた。しかし、一向にその効果が上がっていない。主たる原因は、年功賃金、終身雇用、企業内職業訓練などを通じて労働者を同一企業内に終生囲い込む日本型雇用システムにある。その下では、リスクを冒してでも新しいことにチャレンジしようとして、スピンアウトする人が極めて少ないことは当然である。
     日本型雇用システムを全面的に解体することが難しいとすれば、まず中核をなす職務無限定雇用契約の対象となる社員は現実に幹部候補生として処遇できる範囲内にとどめ、それ以外の社員は同一労働同一賃金の原則の下、雇用の社会的セーフティネットを大幅に拡充することを前提に、職務(地域)限定雇用契約を締結することによって労働力の社会的流動性を高めることが、日本でベンチャー企業の立ち上げを盛んにする必須条件である。


    ⑥ 国立の研究開発機関の拡充
     対象となる社員の範囲を縮小するだけでも、すっかり日本社会に定着している日本型雇用システムを変革することは、現実には容易なことではない。
     もし今後、急速にベンチャー企業が立ち上がらないとすれば、ドイツの例にみられるように国立の研究開発機関を大幅に拡充して、企業と連携して革新的な技術革新を進める体制を整備する必要がある。


    ⑦ 日本版SBIRの創設と政府調達における優先的取り扱いなど
     現在の「中小企業技術革新制度」(通称日本版SBIR)は、アメリカのSBIRとは同列に論じられない似て非なる代物である。本気でイノベーションを活発化させようとするなら、具体的な課題の提示、多段階選抜方式、規制が緩い賞金の交付、優先的な政府調達などからなるアメリカ版SBIRの真髄を取り入れた、真の日本版SBIRを創設する必要がある。
     併せて、政府調達における優先的取り扱いについて真剣に検討を行う必要がある。
     このほか、ベンチャー企業を育成するには、リスクマネーを提供するベンチャーキャピタルの拡充や起業失敗リスクを軽減するための個人保証の上限設定や限定責任制、破産法の免責条項の導入などを図る必要がある。


    ⑧ イノベーションの担い手としての中小企業の育成
     中小企業を日本のイノベーションの原動力と位置づけ、その研究開発部門や販売網を強化する必要がある。併せて、その研究開発を支援する公的な体制を拡充するとともに、研究成果を幅広く活用する道を開くため、企業間における技術の需要と供給をマッチングする仕組みを整備する必要がある。


    ⑨ コンプライアンスと法令改正努力の必要性
     近年コンプライアンスの強化が叫ばれているが、安易に既存法令の遵守と狭く解してチャレンジ意欲を萎縮させているきらいがある。イノベーションは、ときには既存の秩序や法令とまともに衝突する場合がある。このため、イノベーションを成功させるためには、秩序や法令に挑戦してでも実現するとの意気込みと大胆な構想力、政府に法令改正を迫る実行力が求められる。


    ⑩ 戦略的規制の活用と規制見直しの義務化
     規制は市場メカニズムがうまく働かない場合にそれを是正し、解決するために導入されるものであり、規制すなわち悪であると決めつけることはできない。規制がなければイノベーションが行われない場合や、規制の内容や手法によっては、むしろイノベーションが促進される場合がある。イノベーションを活発化させるためには、「戦略的規制」を活用するという発想が重要であり、規制がイノベーションを促進する有力な装置となるように、その内容や手法を定める必要がある。
     また、国際ルールや国際標準の作成において、日本が主導的な役割を果たすことができるように努力する必要がある。
     ただし、規制は通常現状を前提としてその内容や手法が決定されるため、技術革新や社会情勢の変化についていけず、時代遅れの代物になりがちである。また、所管府省が改定に消極的であるほか、規制によって利益を受ける特定の企業、団体、個人が既得権をタテにその改定に反対しがちである。このため、現在閣議決定に基づき規制を新設する場合に行われているいわゆる見直し条項の規定を徹底するとともに、閣議決定が行われた平成9年以前から存在する規制についても、一定期間ごとに絶えず見直し、イノベーションを促進する方向に内容や手法を改めることを関係府省に対し法的に義務づける必要がある。また、関係団体については規制の見直し作業に協力する義務を課すべきである。




    提言2 国の総力を挙げてデジタル産業化に対応すべきである。できなければ日本産業の将来は危うい。

      ICTの技術革新とインターネットの普及に伴い、アナログ時代のビジネスモデルが大きく変質したにもかかわらず、その動きを見逃し、新しい時代の流れに乗り損なったために、瞬く間に世界トップの座から滑り落ちたエレクトロニクス産業が経験した事態が、IoTやインダストリー4.0の動きに伴って、すべての産業分野に広がろうとしている。AIによる自動学習機能の能力向上、スマートフォンやセンサーなどのデバイスの発達に伴い、膨大な量の情報の流通、処理、蓄積が瞬時に世界的規模で可能となり、ビッグデータが付加価値創造の中核となる時代が到来した。流通する情報の結節点を握るプラットフォーマーやCPSを握る企業が世界の付加価値を独占し、それ以外の企業はその下請けの地位に甘んじざるをえなくなるおそれがある。
     かつて苦い経験をしたエレクトロニクス産業の轍を二度と踏まないためには、国の総力を挙げて新しい産業構造変化の波に立ち向かう戦略を練る必要がある。



    提言3 産業政策を保護中心から競争重視へと百八十度転換しなければ生産性は向上しない。企業に生産性向上に対するインセンティブを与えるとともに、それでも生産性が低いままの企業は市場から退出せざるをえなくなるようにコスト面からプッシュするため、最低賃金を引き上げ、その全国統一をめざすべきである。また、整理解雇の要件を緩和して不採算部門を廃止しやすくするためにも、日本型雇用システムの縮小が必要である。

    ① 保護中心の産業政策の転換と政策融資、信用保証の縮小
     生産性を引き上げるためには、個別の企業にイノベーションや事業運営の効率化を促すとともに、企業の新陳代謝を促進して、生産性が低い企業は市場から退出せざるをえなくなるようにする必要がある。中小企業(大半は地域密着型のサービス産業)を弱者とみて保護し続けている限り、生産性が低い企業を生きながらえさせるばかりであり、日本産業の生産性は上昇しない。雇用の社会的セーフティネットを拡充することを前提に、雇用は産業全体で確保するという考えの下、企業の新陳代謝を促進する方向へと産業政策を百八十度転換するべきである。
     具体的には、まず政策融資と信用保証の縮小から取り組む必要がある。


    ② 最低賃金の政策的引き上げと全国一律化
     企業単位に賃金が決まるわが国では、中央交渉において全国一律の水準で賃金が決まる欧米と異なり、生産性が低い企業が生産性の向上を迫られ、それができなければ市場から退出せざるをえなくなるという自律的なメカニズムが働かない。このため、賃金決定方式を改定することが難しいとすれば、それに代わる手段として最低賃金を政策的に引き上げ、多くの企業が生産性向上に取り組まざるをえない水準で基準を決定するべきである。また、現在都道府県単位に設定されている最低賃金を、全国一律の基準に改めるべきである。


    ③ 職務無限定雇用契約対象者の限定
     企業の生産性が上がらない一因が、整理解雇の4要件が厳し過ぎ、容易に従業員を解雇することができないために、過剰労働者の雇用を維持する必要から無理に事業の多角化を進め、不採算部門を温存せざるをえないことにある。このため、生産性を引き上げるためにも、解雇要件が厳しく設定される原因となっている職務無限定雇用契約の対象者の範囲を最小限にとどめることが適当である。




    提言4 増税による財政再建なくして経済成長はない。

     消費と投資が拡大しなければ経済は成長しない。イノベーションには新たな需要を喚起する効果があるが、それだけでは十分な消費意欲や投資意欲の高まりが期待できず、需要の拡大が不十分なままである。消費と投資が停滞しているのは、人々が国の将来に不安を抱いているからであり、不安の根源は財政再建のめどが立たないことにある。ドイツ、フランス並みの中負担は避けられない。増税による財政再建について、早急に国民的合意を取り付けるべきである。
     併せて、人口減少に歯止めをかけ、イノベーションを活発化させるため、大学や公的研究機関を拡充するのに必要な政策予算を大幅に増額するためにも、財政再建は焦眉の急である。





      Ⅳ-2 「イノベーションの活発化と生産性革命」(補論)イノベーションの活発化と生産性革命